大学を卒業してから、起業や就職活動などしてきたもののなかなか上手くいかず、そんな時にご縁があった仕事が「大工」
もちろん大工をした経験どころか、日曜大工さえもしたことのない私でしたが、大工として仕事を得ることができるかもしれないと聞いた時は、
「やってみたい!」
とドキドキが止まりませんでした。
そんなんで、スウェーデンの男性社会で大工として働くことになったのでした。
WOWを通じて大工の道へ
スウェーデンで大学を卒業したのにも関わらず、起業も就職活動も上手くいかず落ち込む日々。
家にいて落ち込んでいても仕方ないと向かったのが、月1回行われているWOWの昼食会。
WOW (Women On Wednesday) というのは、スウェーデンにいる移民女性のスウェーデン社会進出を助けることを目的とした非営利団体のこと。
WOWが主催する行事や月1回の昼食会には時々参加していたものの、しばらく行っていませんでしたが、その時はとにかく誰かと会って気を紛らわしたくて行きました。
そこで昼食会が始まる前に話されたことが「大工として働けるチャンスがある」ということ。
大工どころかハンマーを握ったこともほぼなかった私でしたが、胸がドキドキしてこのチャンスを逃したくないと思い、手を挙げていたのでした。
大工の職業体験へ
それから会社からの説明会、建設現場見学、職業体験が行われました。
とにかく働きたかった私は積極的に会社の人と話して、見学も職業体験もとても楽しくて興味深いものでした。
建設現場の足場を上ったのも初めてで、少し揺れるので建物の4階くらいになるととても怖かったですが、作業着を着て働く大工さんがとってもかっこよく見えて、心が躍りました。
12人ほどの女性が参加し、最初は2人が就職できるという話でしたが、最終的には私だけがその会社で働けるだろうと判断されて、就職することになりました。
それから2カ月ほど仕事が開始されるまで時間があったので、家で筋トレをしたりしながら待ちました。
大工見習い3年間
大工になるためには通常、高校で建築を学び、会社に就職し3年間見習いとして働きます。
3年間働いたらyrkesbevisがもらえて一人前の大工となります。
1年目は70%、2年目は80%、3年目は90%と給料が上がっていき、一人前となると100%フルの給料となり、そこからは皆給料が一緒のシステムです。
高校で建築を学ぶ以外は、会社に見習いとして就職して建築を学びながら働きます。
私も後者で、勉強しながら現場でフルで働くことになりました。
突然の素人日本人女性の登場に凍った現場
就職初日、大工見習の教育を取り仕切る会社員の人が、私を現場の男性大工さんたちに紹介していくのですが。。。
明らかに表情がかたくなっている大工さんたち汗
後から聞いたのですが、全く経験のない日本人女性を紹介されて、どうしたらいいのか分からずかなり戸惑っていたようです。
ま、そりゃそうですよね。
そんなわけで、現場の全体像を全く把握できないまま、ちょくちょく私ができる作業を頼まれて一人それをこなし、周りの大工さんと微妙な距離を保ったまま数日が過ぎたのでした。
体が痛いけどとりあえず一生懸命頑張った
初日で電動ドリルを渡されて、外壁を作るためのボルトを埋め込むための穴を掘り
2日目で、電動の丸ノコを渡されて木材を切り
触ったこともなかった機械や道具や建材は何もかもが重くて、「なんじゃこりゃー」と独り言。
最初の3週間は体中が筋肉痛で、家に帰ってからもとにかくクタクタで、次の日のために夜7時くらいには寝てました。
少しずつ名前を呼んでくれる人が増えていった
ある日、現場の掃除を頼まれたので、太陽さんさんの天気の中、3時間くらい広い現場を歩き続けひたすら廃材やらゴミやらを拾ってました。
そんな中現場に来たもう一人の大工さんが「あれ、きれいになってる」「はる蔵がやったんだよ」「へー」
こんなことが重なり、とにかく頼まれたことを一生懸命やっていたら、少しずつ私の名前を呼んでくれる大工さんが増えていきました。
本当に目も合わせてくれない大工さんもいたのですが、少しずつ話せる人や助けてくれる人たちが増えて、少しずつですがそこで働く居心地がよくなっていきました。
試用期間が終わって正社員になった
とにかく素人ということで採用されたので、できることは
- 素直に話を聞いてやってみる
- 分からなかったら聞く
- 精一杯やる
- 周りの雰囲気に合わせてリラックス
試用期間の6カ月が終わり正社員となった頃には、体も慣れて、他の男性大工さんとの仕事や交流も楽しめるようになってました。
正社員になった時は嬉しかったなぁ~。
地元の新聞に取材された
そんな頃、地元の新聞社から取材を受けました。
今までの経歴やらなぜ大工になったのかなどを楽しく話して終わりましたが、実際新聞ができたら一番最初のページにドーンと自分の写真が載ってて笑
他の大工さんからもおちょくられつつ、お土産に新聞買ってきてくれたりして、恥ずかしいやら嬉しいやらの1日でした。
その日以来、会社のホームページや社内誌にも記事や写真が載るなど、まだ見習いなのに宣伝に色々使われ、会社内でも多く知られるようになりました。
男性社会は気楽ですごく面白い
男性社会で働いたことは初めてでしたが、大工さんたちは超楽しい人達でした。
上下関係が全然なくて、大工さんって冗談を言いまくりでお互いいたずらをしまくり。
大音量の音楽かけながら作業したり、歌ったり、しゃべったり、気楽にリラックスすることを彼らから教えてもらいました。
- 隠れていて「ワッ」と驚かしてくる
- 集中して作業している後ろから、耳元で大声で叫ばれる
- 脚立をゆらしてくる
など色々いたずらもされましたね笑
なんでも大工って大変な仕事だから、冗談を言い合って乗り切るみたいな文化が長くあるんだと聞かされました。
スウェーデン人を大好きだと思えたのは、彼らのおかげです。
本当に素敵な人たちでした。
作業着、道具はすべて支給
作業着や道具って本当に高いんですよね。
足先部分が固くなっていて足をしっかり守ってくれる保護靴は3~4万円位するのに最初驚きました。
でも、体を守る作業着は安全に作業するのに必要なもの。
それを従業員は足りなくなれば気軽に注文ができて、穴が開いたり壊れたらすぐに新しいのを支給してもらえました。
大工仕事をする機械やハンマー、ナイフなどの道具も個人それぞれに支給されます。
電動のこぎりや電動ドリルも自分用の新しい物を使うことができました。
道具は壊れても新しい物をすぐにもらえました。
会社が従業員の安全を考えてくれているのが、良くわかりました。
建設業界の不況と解雇
仕事が終わった一日は、いつもやりきったという爽快感が感じられ、人間関係も良くて、楽しく働いていました。
でも、いやな噂は度々出ていました。
コロナや戦争の影響か、材料費が上がったり、家が売りにくくなったり、新しいプロジェクトを受注することができないなど。
そして、2022年から解雇が始まりました。
最初は、事務所で作業をする人から。
現場作業をする大工の解雇は、なるべくしないようにしていると聞きました。
でも、2023年9月夏季休暇が終わってまた新たに仕事を頑張ろうとしていた時、3人の大工が呼ばれました。
私も含めてです。
そこで、会社の大変な現状を話され、arbetsbrist「仕事の不足」を理由に、解雇が決まったと言われました。
スウェーデンは「最後が最初」
やむを得ない解雇の場合、新しく雇用された人から解雇されるのが一般的。
私は1年半働きましたが、一番の新人。
いくら頑張って働いても最初に呼ばれてしまいました。
やっとスウェーデンで見つけた、居心地の良い大好きな場所、大好きな人達、大好きな仕事。
涙が止まらなかったです。
残った思い出と人脈
その後も大工の解雇は続き、一緒に働いた人達が会社を去っていきました。
その後、この会社以外で大工をする気にもならず、見習いの状態での解雇だったので、次の就職も難しく。
さらに、やはりきつい仕事なので、すでに肩を痛めていて、今後大工として何年働けるのだろうと不安もあったので、きっと大工としてまた働くことはないだろうと思います。
でも、私にとって大工として働いた時間は、本当に楽しくて素晴らしい時間でした。
スウェーデン人が大好きになれたし、今も大工仲間が私を気にかけてくれて、時々会ったりしてます。
大好きな人達、会えてよかった。
A-kassa 入っててよかったよ
A-kassa 失業保険基金に入っておいた方がいい、と言われて入っていました。
A-kassaは業種によって、取り持つ団体が変わりますが、私が入っていたところでは6か月入っていたら、解雇された際に失業手当が給付されます。
まさか解雇になるとは思ってもいなかったのですが、入っていて良かったと心底思いました。
スウェーデンの男性社会で大工として働いてみた
ということで、スウェーデンの男性社会で大工として働いてみたことについて書いてみました。
女性が少ない、さらに移民女性はほとんどいないであろう状態で大工として働いてみましたが、待遇もすごく良かったです。
ただ、体にきつい仕事であることは確かで、すでに右腕が上がらず肩を痛めていて、仕事を辞めて4か月位でやっとスムーズ腕が回るようになりました。
もしかしたら、体を壊す前に辞められたのは、長い目で見てみれば良いことだったのかもしれません。
ということで、素敵な思い出を胸に前を向いて、これからもスウェーデンで頑張っていきます!